織の道具
文献をあさるほど研究者でもなく
●信号のないクロスロードからお日さまの方向に少し歩くと、この町の人々や大きな荷物を背負い山から下りてきた人たちが集まってくるところがある。広場のように道は少し広くなっていて、捨て水で水溜まりができたところにもリキシャや自転車が乱雑に停められている。まぎれもなく市場だ。途上国へ出かけた時に、必ず覗いてみるのがこのようなマーケット。そして、日常の生活用品や食料品を見て廻るのが楽しみだ。このような町は界隈性を持っていて、場所がわかりやすい。もうひとつ、どうしても探したいものがわたしにはある。骨董屋だ。目的は、いまも根強く生活の中に入り込んでいる、染織関係の道具達と出会い、買い求めるためだ。以前は(国によって事情は異なるが)、織物をしている村などで実際使っているものをわけてもらう事もあった。近年はそれができない。
わたしが魅力を感じる、手垢のついた使い古されたような、そして昔ながらのデザインと機能を持ちあわせたものに出会うことが少ないからだ。また、生活の糧として重要な仕事である場合、それらの使い慣れた道具を無下に取り上げてしまうようなことは、できなくなってきた。無理矢理現金を見せて、取り上げるような事をしたという反省もある。学者でもコレクターでもないわたしには、見つかれば儲けもんくらいのことなので、系統たてて収集していない。織りや紡ぎの道具が、単におもしろいからである。必ずと言っていい程、道具は骨董屋の片すみに眠っている。少し具合の悪い状態のものではあるが、現在使われていない形態のものも見つかる。使用方法の定かでない道具もあって聞き取りをしてもなおも不明のものがたくさんある。道具に本物も贋物もないが、やはり手垢のついた埃まみれのそれらを見付けると、「やった!」と言う気分になる。また、装飾された道具を入手できた時は、本当にうれしい。今ではきれいに絵柄等のついたそれらを見ることは稀だからである。
手織物、手紡ぎ等で使用される道具は、世界各地でいろいろな形態のものがあり、機能的にもさまざまである。羊毛や綿など素材によって、当然の事ながら異なる。織物組織や糸番手等によっても、道具は変化し興味ある対象となってくる。ほとんどの場合、その地域に生育する材木によって作られる。
手紡ぎ道具は、羊毛産地や綿産地には、必ずドロップスピンドルがある。大まかな分類であるが、綿や細番手の場合は軽い小さなスピンドルだし、羊毛等で特にキリムくらいの厚手のカーペット等に使用する、太い番手を紡ぐものは重く大きい。歩きながら紡ぐのに都合良よく工夫されたスピンドルのなかには、コマ部分が2枚のものや移動するコマがはめられているものもある。ツム先にフックのあるもの、またその反対の場合、使用方法もツム先を下に、あるいは上にする場合や真横に向けたくさんの糸が紡がれ重くなったとしてもそのまま紡ぎ続けたりもする。このように道具を見ていくと、なるほどと感心してみたり、お隣の国ではもっと簡単で楽な方法で紡いでますよ、と教えたくなる時もある。手紡ぎは、今ではわたしたちは紡毛機という大きな横型、縦型の違いはあっても、早く大量に紡ぐことができる。ドロップスピンドルは、手紡ぎの基本として教わるに過ぎない。しかし、まだまだ発展途上の国では、ドロップスピンドルが生活の中で生きている。
手織物では、世界共通にシャトル(杼)がある。通常のボート型シャトル以外に、筒型や刀杼、タペストリーボビンや、それらに工夫を施した特殊なものもある。諸条件によって納得できる違いがある。織機の構造についてはもっと、変化に富む。高機での組織を織るための工夫ひとつ取り上げても地域によって違い、これもまた非常に興味わくものである。
世界中、人の住むところには衣服や住まいのための布はある。食の分野でも必要である。ということは織る、編む、組む、刺すなどの道具が存在するはずである。生産技術の進歩によって忘れ去られてしまったこれらの道具たちから、先人たちの文化に触れてみたい。また、これら日々の手仕事を捨て去ろうとする傾向にある途上国の職人には、勝手ではあるが、技術を保存し続けてもらいたいものだ。
{Art&Craft forum vol.8 -rewrite}
SASHES/サシェを織る専用織機 リトアニア
●バルト3国の一つ、リトアニアは良質な亜麻の原産地です。リネンは麻の中の種類の1つでフラックスという植物の茎から作られたものでリトアニアは東欧のリネン中心地ともいえます。たくさんのリトアニアリネンが輸出されています。リトアニアには伝統のある手仕事の文化があり、リネンとともにウール糸も使用され民族衣装を着る時に使うサシェ(腰紐)は特に有名です。リトアニアをはじめバルト三国の民族衣装で腰や首元にまく伝統的な織りベルトをいいます。ひとつひとつ織り機で丁寧に織られた模様は独特の意味を持っています。
首都のヴィリニュスから西に約28kmに、トラカイという森とガリベ湖に囲まれた中世の要塞古城トラカイ城がありリゾート地として、また観光地として有名です。この簡易そうに見える小さなベルト織機は、船着き場近くの土産物屋で見つけたもので即購入、大切にしています。相当使い込まれたもので部品の欠如もありますが、伝統柄を織り出すシステムが非常に興味あるものです。ジャガードの様にパンチカードを都度、差し込み交換する事によって組織織を製織する事が出来ます。時代や地方を詳しく知りたいのですが全く資料がありません。現状も小型のジャガード機を使用してパターンを織り出していること程度しか解りません。どなたかご存知ありませんか?
インド ミラーワーク インド・グジャラート州、ラジャスターン州の女性用ブラウス・クルタ(チョーリ?)の断片 ミラー(シーシャ)ワーク。 |
タイ カレン族 タイ・北部の少数民族スゴウ・カレン族のブラウスの裾部分。数珠玉の白い実を縫い付け、隙間を刺繍で埋めてゆく。 |
ラオス プロトインドシナ原住民(プロト・マレイ人と呼ぶ人もいる)ホエイフン村のカ・トゥ族の非常に珍しい布地。緯糸にビーズを刺しながら織る。 |
タイ カレン族 タイ・北部の少数民族スゴウ・カレン族のブラウスの裾部分。数珠玉の白い実を縫い付け、隙間を刺繍で埋めてゆく。 |
グアテマラ どの村の布地かは不明。非常に古い物で鳥や動物、幾何学模様は絹で縫い取りの緯で表している。 |
グアテマラ 女性用のスカート(コルテまたはレファホ)に使う布地。カクチケル言語帯、サン・ペドロ・アヤンプック、サン・ファン・サカテペケス付近。 |
ラオス ラオスは染織の宝庫。絣・紋織等、伝統の織柄が継承されている。 |
カンボジア IKTT シェムリアップにあるIKTTクメール伝統織物研究所で購入した絣。故森本喜久男氏が伝統の緯絣等を黄金の絹糸で復活された。 |
インド パトラ織 インド・パタンの絹のパトラ織。ダブルイカット(経緯絣)としてはインドネシア・バリ島トゥガナン村のグリンシンと並ぶ。サルディー家は800年の歴史がある。 |
ラオス ラオスは染織の宝庫。絣・紋織等、伝統の織柄が継承されている。 |
チュニジア 絞り染め 南部ベルベルの村、タメズレ村で見つけた絞り染め。肩掛けやヴェールに使う。地の部分はウールだがボーダーは木綿を使うので色が染まらない。 |
チュニジア 絞り染めとスプラング ベルベルの絞り染めのショール「ケティフィア」(左)とスプラング(右)の帽子のように巻くスカーフ。スプラングを見つけた時は驚いた。 |
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